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【待ってるよん】 文/いっぽ
大きく広がるうす紅色の夕暮れを見ながら、彼の手作りビールを飲む。ゆったりと流れる、穏やかで心地よい時間。ここは、アメリカ。NY州のロングアイ
ランド。
海なし県で育った彼は、働いている研究所から車で1時間ほどの運河のそばにアパートを借りた。ビーチまでは車で5分ぐらい。その気になったら歩いても行ける。運河をのぼってくる海風がここちよい。
ロングアイランドは砂が積もってできた平らな土地。おまけにこの辺り一帯の建物は2階までと決められているので、空がとても広い。夕暮れちかくになると、まあるい空の東のはしはまだ青いのに、西の方はピンク色になって、そのグラディエーションが刻々と変化する様はたとえようがない。
彼も私も、日本では日本酒が好きでよく飲んでいた。でも、ここではおいしい日本酒はそうそう手に入らない。そのかわり、ビールは大きなメーカーのものから地元のものまで、星の数ほど手に入った。おまけに、当時の友人のひとりが大のビール党。ビール党の彼いわく「アメリカでは、個人でビールが作れるそうやから、つくってみんか?おれにはムリやけど。」ということで、人の良いわたしの彼が作ることになったそうだ。
「温度管理が大切なんだけど、なかなかうまくいかなくて。ラガーみたいな黄色いビールは難しくて、黒ビールをつくってるんだよ」そういう彼のビールは、黒っぽくって泡立ちはひかえめ。のど越しスッキリとはいかないけれど、甘味とちょっとした酸味のある、しっかりとした味だった。おいしい。生まれて初めて飲んだ黒ビール。飲めば飲むほど癖にる。
日本に帰った今。あの彼は超多忙なサラリーマン。わたしも2人の子持ちの主婦になり、そうそうふたりだけの時間は持てなくなった。でも、子供たちが早く寝たこんな夜は、手作りビールならぬ3年モノの大吟醸で、また大人の時間
を持ちたいな。
早く帰って来てね〜。待ってるよん。

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