【私の好きな空間】 文/神城 凪

 
 私は『お酒のある空間』が好きだ。

 まずは“居酒屋”。何はさておき、ビールで乾杯。気の合う仲間と飲むひと ときである。普段は頭の上がらない相手にも、このときばかりはと無礼講。片 隅にて、愚痴のひとつやふたつ。くだらない冗談にも、お腹の底から大笑いで きる。居酒屋をあとにした私の心には、不思議と明日への活力がみなぎってい るのである。
 
 あざやかな手つきで、次から次へとカクテルを生みだす“ショットバー”の バーテンダー。私はカウンターに座り、うっとりとその技を眺める。シェー カーがリズミカルに空中を舞い、やがてあざやかな色の液体が、グラスの中に 注ぎ込まれる。そして、マチビトのもとへ……。そんなカクテルたちを、私は そっと見送るのである。

 “Jazzの流れるバー”で、スコッチのダブル片手に、ナット・キング・コール をリクエスト。ヘレン・メリルのハスキーな歌声に、ため息をひとつ。そして、 ルイ・アームストロングのトランペットに酔いしれる。疲れた私の心は、いつし か深くおだやかな場所へと帰っていく。癒されたいとき、私はひとりでここに来 る。誰も知らない、秘密の隠れ家。 

 実は、私はあまりお酒が飲めない。体質的に合わないのだ。それでも『お酒の ある空間』は私を迎え入れてくれる。やさしく、そしてあたたかく……。  私の好きな空間を作り出してくれる「お酒」に、今日も会いに行こう。

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