少し埃をかぶったボトル。ところどころ剥がれたラベル。 私の誕生日だというのに、目の前のテーブルにはきれいとはいえないワインが1本しか置かれていなかった。それも彼の散らかった部屋。 ふて腐れた私を無視して、たった1本のバースディプレゼントを開ける彼。 ワインを開けるなら俺に任せてよ。 そう自慢していたくせに、手元が少しだけ震えている。罪の意識?だったら思い切り感じてほしい。小汚いボトルのワイン1本で、私のドレスアップを台無しにしするなんて。 お誕生日おめでとう。 強引に乾杯を迫る彼。仕方なくグラスを口元に運ぶ私。 あれ?今日の香水、こんなに甘い香りだったっけ。密のような甘い香りは、私の腕の内側からではなく、ワイングラスの中から漂ってきたものだった。
これって……言いかけた私を目で制して、彼は言うのだ。 いいから飲んでごらん。 催眠術にかかったように、私はそのワインを一口飲んだ。 とろりとしているようにさえ思える極上の甘さ。口の中に広がる豊饒な香り。 ラベルにはソルティーヌ。私が読める、たったひとつのフランス語。 これって、貴腐ワインでしょ。私がずっと飲みたかった。 アルバイトに明け暮れていた貧乏学生の彼が、どこでこの高価なワインを手に入れたのか、私にはわからない。そんなことよりも、これ以上スウィートな瞬間がほかにもあるのかどうか、その方が、私は知りたかった。
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