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【百寿】 文/おぐら美月
父がいなくなってからの月日は、ゆっくりと悲しむひまもなく瞬く間にすぎた。
四十九日の法要をあわただしく済ませた日、
実家の冷蔵庫で飲みかけの日本酒の瓶を見つけた。
正月の祝い酒にと、私が贈った酒だ。越後の銘酒「久保田」の『百寿』
だんだん弱っていく父にどうしても飲ませたかった。
その銘が呪術のように父に奇跡の力を与えてくれるような気がした。
「美味い酒だね」
「たくさん飲んで長生きしなよ」
「たった百歳でいいのか」
「来年は『千寿』 さ来年は『萬寿』を贈るよ」
「うーん、長生きは孤独だからツルとカメもいっしょに頼む」
小さな瓶だ。父なら飲み残す量ではない。もうそんなに具合が悪かったの?
ぴっちりと栓をして、さらにラップでまいてある。
父らしいなと思いつつ、開けてふたつのコップに注ぐ。
「DNAの指名はいかに生き延びるか、つまりいかに子孫を残すか、なんだってさ」
「じゃあ、おとうさんのDNAは、美人で優秀な子孫を残せて、本望だね」
「だから脳は、自分を捨ててでも子どもを守るようにインプットされてる。DNAに支配されてるっていう説があるんだ」
ダイニングに春めいてきた陽ざしがさして、背中がこころなしか温かい。
越後の厳しい自然に耐えて育まれた銘酒に、春の寿ぎがきらめく。
父の人生に乾杯。

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