【ギネスの微笑】 文/星野さくら


ある日、和菓子職人は舶来パンの製造中に、誤って餡(あんこ)を落としてしまった。誤って落とした餡入りのパンは意外にも人気を集め、アンパンの誕生となったのである。
偶然は、時には後世に残る結果をもたらしてくれるものだ。
これと似た話はアイルランドにもある。

ギネスビールの創始者、アーサー・ギネスは、ビールの製造中に誤って大麦を焦がしてしまった。これでは売り物にならないと、焦げた麦で出来上がったビールを無料で配ったそうである。
次の日からこの焦げ臭いビールの注文が殺到する。
焦げた大麦から出来たビールは、アイルランドで一番のシェアを持ち、世界中で親しまれている“ギネスビール”として意外な結果をもたらした。

彼は偶然にも、廃業した醸造所を年間45ポンドで9000年の賃貸契約を結んでいた。9000年もの間、彼はビールを作る気であったのかどうか定かではないが、ギネスビールが世界中で飲まれうる為の“お膳立て”とも言える契約である。
世の中の成功とは、意外とこんな偶然や失敗から生まれるものなのだろう。失敗は成功のもと…とは、よく言ったものである。

餡を誤って落とした和菓子職人、大麦を焦がしてしまったアーサー・ギネス。
彼らはその瞬間、目の前の失敗作がメジャーになるとは、夢にも思ってもいなかっただろう。ただ、失敗作を前にして唖然と…いや、アーサー・ギネスに至ってはどれほどの落胆であっただろうか。

そんなことを考えながらギネスビールをパイントグラスに注いでみると、泡の向こうで、苦笑いしているアーサー・ギネスが、見え隠れしているようで面白い。



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