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【最高の潤滑油】 文/ゆっち
遠距離恋愛をしていた彼が、さらに遠くに転勤になり
わたしたちは急きょ結婚を決めた。
長くつきあっていたにもかかわらず、
わたしは彼のことを直接父に話したことがなかった。
父はわたしが幼い頃から単身赴任を繰り返していて
たまに会う父に何となく言いそびれてきたのだ。
そんな娘の突然の結婚宣言。
理屈っぽく昔かたぎな父が何と言うだろうか。
すぐに許してくれるだろうか。
まだ早いと言われないだろうか。
とても不安な気持ちを抱え、挨拶の日を迎えた。
彼が来たよ、と声をかけても父はなかなか2階から降りてこない。
しばらくたってやっと降りてきた父は、開口一番こう言った。
「お酒、飲めますか?」
「はい」
「おい、ビール持って来い!」
何でいきなりビールなんだ? と思いつつ、ビールを出し
簡単なおつまみを母と作って持っていくと、
すでに男2人はほがらかに話をしていた。
そして、父はわたしに「おめでとう!」と言った。
訳が分からなかったが、後から彼に聞くと
乾杯をした後、「結婚させてください」という彼の言葉をさえぎるように
「娘にすべて任せてありますから」と言ったという。
うれしかった。
そして、お酒の力を借りて結婚を許してくれた父を
とても父らしいと思った。
その日、彼はわたしの旧姓と同じ名前の蔵元が作った
日本酒を携えて来ていた。
「僕、このお酒が一番好きなんですよ」と。
どうも酒飲みの考えることは同じらしい(笑)。
お酒は最高の潤滑油の役割を果たしてくれた。
今でも実家に帰るたび、あの日本酒を持って帰る。
そして、父と息子の晩酌が始まる。
2人とも酒飲みで良かったなぁ〜とつくづく思う、今日この頃。
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